【可憐にして偉大なる音痴、フローレンス・フォスター・ジェンキンズのドラマティックでハートフルなオリジナル傑作コメディ!】、チラシに書かれたこのキャッチフレーズだけで心を鷲掴みにされました。それだけでなく、今回はその歌姫を篠井英介さんが演じるというのだから興味津々。その演じ方(歌い方)もインタビューの際に“男の声と裏声の狭間”で表現されるというのだから、それだけでも観る価値があるだろうと、意気揚々と劇場へ足を運びました。
鈴木勝秀さん演出作品といえば同じ劇場で『ディファイルド』を観劇したんですが、その時はクールでスタイリッシュな印象を受けました。舞台美術は白黒のモノトーンで、刑事と犯人の緊迫したやり取りが緊張感を生んだ作品でした。
今作『グローリアス!』は真逆で、美術はビビットなカラーをたくさん使い、少し風変わりなデザイン。人によってはサイケデリックな印象を受けると思います。実在した主人公フローレンスが実際にこのような部屋には住んでなかったと願いますが(笑)、これがコメディ作品であることをわかりやすく提示されています。
篠井さんの華やかさと存在感!
篠井さんが女性を演じている姿を生で観たのは初めてでしたが、登場から華やかさと存在感がすごかった!舞台に立っているだけで空気が変わります。イジワルな自分はそれでも、男性が女性を演じていることでどこか“ほころび”が生じるのではないかと思いながら観ている節があったのですが、見れば見るほど女性にしか見えなくなって、いつの間にか心を奪われていました。
フローレンスはかなりポジティブです。オンチであっても堂々とみんなの前で歌を披露するし、自分の写真入りワインをプレゼントしたり、あげくにプロの歌手と自分の歌声を比較して自分の方が上だと思っている(笑)。友達にいたら少し面倒くさい人に感じるかもしれないけど、彼女の歌に対する情熱を見ていると楽しくなってくる。人は相手を理解さえすれば許せる、とはよく言ったものです。
ピアニストもいいんです!
舞台の音楽をピアニストが生で演奏しています。
開演直後は正直、違和感がありました。というのも、この物語でフローレンスの相方になるピアニストのコズメ(水田航生)がいるからです。『なぜピアニストがいる作品で、別の方が演奏を・・・』と思っていたら、まさか水田さんは演奏をするふりだけで、それに合わせてピアニストが演奏をしている!(笑)
近年いろんな舞台を観てはよく思うんですが、役者が踊ったり歌ったりアクションやったり多彩すぎ!それはそれで凄いことだけど、役者としてはその雰囲気(役割)ができていたらいいんです。なので、これは笑えるし正解だなと思って観ていたら、突然ピアニストとコズメがお芝居をするシーンが入ります。まるでコズメと影法師が自分の主張をぶつけ合うように。このやり取りが入るとただ笑えるだけでなく、ピアニストの意味付けもバッチリになり、ますます世界観に入り込めました!
常に前を向くフローレンス
フローレンスの真っ直ぐさと呼応するように、物語も真っ直ぐ進みます。
【人生苦もありゃ楽もある】というのが定説です。しかし、フローレンスを観ていたら、自分自身が前向きに生きて行けば、どんな“苦”もすぐに“楽”にひっくり返せるエネルギーがあるんじゃないかと思えてきます。
最初から最後までフローレンスの前向きな姿勢に、笑いと勇気と希望をいただきました!
(文:かみざともりひと)
舞台「グローリアス!」
作:Peter Quilter
翻訳:芦沢みどり
演出:鈴木勝秀
出演:篠井英介、水田航生、彩吹真央
2017年8月18日(金)~9月15日(金)/東京・DDD青山クロスシアター
公式サイト
舞台「グローリアス!」