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ずっとずっと聴いていたかった!ブレヒト最大の問題作・音楽劇「マハゴニー市の興亡」観劇レビュー

音楽劇「マハゴニー市の興亡」舞台写真ずっとずっと聴いていたかった!ブレヒト最大の問題作・音楽劇「マハゴニー市の興亡」観劇レビュー

三文オペラで有名な、ベルトルト・ブレヒトとクルト・ヴァイルが組んだ、オペラ「マハゴニー市の興亡」が音楽劇としてKAAT神奈川芸術劇場で蘇る!
On7(オンナナ)青年座の尾身美詞が観劇レビューをお届けします。

 
ブレヒト最大の問題作と呼ばれている今作は、1933年にナチスが上演を禁止し以降1960年、70年代に再注目され欧州では著名となっていましたが、日本ではほとんど上演例がありません。なので、今回の上演は貴重な機会になること間違いなしの注目の公演です!
私自身も「三文オペラ」は何度となく観劇してきましたが、「マハゴニー市の興亡」は初めての観劇でした。

KAAT芸術監督の白井晃さんの演出によって、より現代の感覚に近づけるための演出がふんだんに盛り込まれている、とてもお洒落な舞台に作り込まれていました。

 

お洒落な生演奏と、怪しい雰囲気・・・!

音楽劇「マハゴニー市の興亡」舞台写真

かなり全面まで張り出された舞台に怪しいジャズの音色が響き、青い防護服に身を包んだアンサンブルキャストと共にピンクの車が走り込んできます。

今回、より現代の感覚に引き寄せるため、ヴァイルの音楽をフリージャズのスガダイロー氏が再構成されているそうですが、お洒落な生演奏と怪しい雰囲気によりオープニングからゾクッと様々な感覚が研ぎすまされます。
そして車から降りて来たのは、大ベテランの中尾ミエさん、上條恒彦さん、そして古谷一行さん…
もうそれだけで、ものすごい迫力!これからどんな世界が繰り広げられるのか…それだけでワクワクが止まりません。

 

売春と詐欺の容疑で指名手配中の逃亡犯であるベグビック(中尾ミエ)、ファッティ(古谷一行)、モーゼ(上條恒彦)が乗った車が故障し、立ち往生…3人は大金を稼ぐため、人々の欲望を叶えられる街”マハゴニー”(網を張る街)を作り出し、街の中心に”気まま亭”という名の酒場を作り出したところから物語は始まります。
酒、ギャンブル、ドラッグ、セックス…この地なら全ての欲望が叶う!と瞬く間にマハゴニー市の噂は広まり、まずその地に降り立ったのは売春婦たち。

セクシーな衣裳を見にまとい、キャリーケースをゴロゴロと引きずり、「♪アラバマ・ソング」を歌い踊りながら颯爽と現れます。数々のミュージカルで活躍されてきたマルシアさんのセクシーな歌と迫力にまたまた圧倒されます。
今作の振り付けは若手のストリートダンサーRuu氏。
振り付けがとてもセクシーでお洒落で個性的!舞台上のどこを見ても楽しませてくれます。

 

熱狂するマハゴニー市・・・。「それが人間だ!」

音楽劇「マハゴニー市の興亡」舞台写真

そして、世界中から欲望が叶う楽園マハゴニーに憧れた沢山の若者たちが押し寄せてきます。

マハゴニーに来るために7年間必死でアラスカで木こりをしていた若者ジム(山本耕史)と3人の男達。
個性的でチャーミングな仲間たちと、山本耕史さんのさすがのかっこよさ!
様々なストレートプレイのみならずミュージカルでも存在感を示してきた山本耕史さんの力強く美しい歌声に魅了されます。

マハゴニー市は世界中の欲望を吸収して人々の夢と希望を貪り膨張していきます。
ところが、人間は欲望が達成されると、それでは満足出来ず、さらに…さらに…と欲を強めていく…

荒稼ぎが目的の気まま亭の経営者であるビグベッグたちは、何もかもの値をつり上げ、気まま亭をルールで縛り上げる。
マハゴニーが物足りなくなったジムは、俺はこの地に来るまでに7年間も必死で金を溜めてきたんだ!!!その大切な金を使うに値する地なのか?!ものたりない!!とんだ見込み違いだ!と嘆き、更なる理想を追い求めます。

そこに巨大な台風がやってきて、命の危機にさらされた市民達は「死んだらそれまでだ!!」と更なる欲望の膨張を正当化し、マハゴニー市は”何でも好きなことをしていい街”へと更なる変貌を遂げて行きます。

「死んだら全ておしまい、救いなんてどこにもない」「何でも好きなことをしていい」「やりたいことをやれ」
「金の価値は大きい」「短い人生、人生に悔いはなし」

マハゴニー市の熱狂ぶりを見ながら、拝金主義にまみれた現代社会へのブレヒトからの悲しい警告を感じずにはいられません。

台風、地震、デモ…
86年以上前に書かれた作品とは思えないほど、現代を感じさせられる内容ですが、白井氏の演出によりさらに身近に現代社会に迫ってきます。
ルールとは、秩序とは、自由とは、欲望とは…

「それが人間だ!」と突きつけられ、人間の果てのない欲望を考えると同時に…生きる意味を考えずにはいられません。

 

怪しく美しいヴァイルの楽曲

音楽劇「マハゴニー市の興亡」舞台写真

難しい題材ではありますが、ベテランキャスト陣がこぞって「音が難しすぎる、耳になじむまで時間がかかった」と口を揃えるヴァイルの楽曲は、怪しく美しく…終演後もずっとずっと聴いていたかった!と感じるほど!
ジャズの生演奏とセクシーで斬新な踊りも、本当に美しく!カッコ良く!お洒落で!終始楽しませてくれました!!!
個人的には、クラシックの「乙女の祈り」が街と人々の精神が壊れていくとともに転調し崩れていくという、楽曲中のアレンジが最強にカッコ良く、しびれました。
娼館マンダレーで娼婦たちが男達の性欲の処理をする、という「♪愛に時間はいらない」の、7枚のベットマット上で繰り広げられる男女カップルの振り付けも秀逸!
まさに、各アーティストの魅力が存分に生かされ、舞台は総合芸術だ!と嬉しくなる舞台でした。

 

オススメ!「マハゴニー市民席」

音楽劇「マハゴニー市の興亡」舞台写真

そして、何と言ってもお伝えせねばならないのは、広い舞台の両サイドに設置された「マハゴニー市民席」という名の客席です。
かなり舞台の奥まで客席が並び、役者をかぶりつきで見ることができ、迫力も満点!さらには、”劇場全体が街である”というコンセプトとともに、市民席の方々は市民として舞台上に借り出されるシーンもあり、舞台を一緒に楽しみたい方々にはオススメのお席です!!

観客も含めて作品となっている、まさに総合芸術の「マハゴニー市の興亡」。
改めて、KAATの上演作品は意欲的で挑戦的。何より、劇場空間も本当に素晴らしく、東京とは一線を画した劇場だ!と再認識させられました。

ぜひぜひ、見て・聴いて・感じて・考えて…頭と心と感覚をフル活動して、マハゴニー市を体感してきてください!!

(文:尾身美詞)

公演情報

舞台「マハゴニー市の興亡」

【作】ベルトルト・ブレヒト  
【作曲】クルト・ヴァイル  
【翻訳】酒寄進一
【演出・上演台本・訳詞】白井晃  
【音楽監督】スガダイロー  
【振付】Ruu

【出演】
山本耕史 マルシア
中尾ミエ 上條恒彦 古谷一行

細見大輔 櫻井章喜 辰巳智秋 / Ruu
明樂哲典 伊勢大貴 加藤義宗 岸田研二 木村雅彦 今野晶乃 
SALLY 鈴木崇乃 遠山悠介 長友郁真 NAMImonroe 橋本由希子 
早瀬マミ 村田慶介 薬丸翔 山﨑将平 吉田哲也 立崇なおと

2016年9月6日(火)~22日(木・祝)/神奈川・KAAT神奈川芸術劇場<ホール>

舞台「マハゴニー市の興亡」 公式サイト
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