[スタジオ術Ⅲ] 音響装置としての移動スタジオ 〜 スタジオを持って街に出よう! 編 〜 第3回 機材の選定(2) 〜エフェクターについて〜
第3回機材の選定(2)〜エフェクターについて〜
さて、今回は“リアルタイムな音響生成(音加工&変化)”の本丸、エフェクターに切り込んでみたいと思います。
“エフェクター”と聞いてどんな物を思い出すか?は人それぞれだと思いますが、今回は学生諸君(そして、バイトに追われる演劇青年)の“懐具合”に配慮し、比較的安価なタイプのエフェクターを念頭においてお話したいと思います。
エフェクターと一言で申しましても、その種類は様々で、また“種類”とは申しましても“効果の違い“といった意味での”種類“もありますが、ラックタイプやコンパクトタイプ等、”形状的な違い“といった意味での”種類“もあったりします。
今回は、コンパクトタイプのエフェクターを念頭に話を進めて行きたいと思います。その理由は、①比較的安価なのと、ザックリ言ってしまえば②1台1機能かつ③アナログ的な操作性を持つものが主流なので、音響に“リアルタイムな変化”を施す上で都合が良いということが挙げられます。
“中古”ということで言えば、ラック型のエフェクターも現在はかなりお安く入手できると思いますので、値段的な問題で言えば“選択肢”に入りそうなものですが、お安いラック型エフェクターはほぼデジタルエフェクターかと思われますので、瞬間的な操作に難があるのです。要するに、数値(効果のかかり具合等)を変更したくても、いちいち小さな液晶ディスプレイに変更したい項目のページを表示させ、その上で数値を変更し、OK(確定)ボタンを押さなければなりません。これだと“リアルタイムな変化”が出来ません。
筆者がかつて使用していたデジタルエフェクター(ラックタイプ)。この小さな液晶に機能を呼び出して、ダイヤルを回して数値を入力し、再度ボタンを押して効果やそのかかり具合を決定する。瞬時に耳で効果を確認しながら操作できないので、今回の様な使い方をする上ではとりあえず却下。
ちなみに、ラック型のエフェクターの中にもアナログ仕様のモノは存在します。ですが、中古市場でも概ね“高額”と言えます。70年代〜80年代半ば(これ以降はほぼデジタルに移行)のものが多いかと思いますが、こうしたものは“中古“ではなく、”ヴィンテージ“などと呼ばれ、普通に7~8万円、高いものだと数十万円ぐらいします。ですので、基本、こちらは選択肢から外しておいて良いと思われます。
筆者所有のアナログエフェクター(ラックタイプ)。上はローランドのデジタルディレイSDE-2000。こちらはデジタルではあるものの、コンパクトエフェクター同様、比較的アナログライクな使い方ができる機種。下はローランドのステレオフランジャーSBF-325。こちらはアナログ機。4つのダイヤルで瞬時にエフェクトのかかり具合が操作できる。ちなみに、“効果”自体の切り替えダイヤル(中央、緑ランプ横のEFECTMODEダイヤル)でフランジャー3種&コーラス1種が瞬時に切り替えられる。楽劇座の公演ではアナログシンセサイザー用のエフェクターとして常に使用。
そこいくと、コンパクトエフェクターは優秀です。お財布にも優しいですし、直感的な操作も可能です。なんたって、ダイヤルが3〜4つ付いているだけですから。で、それを左右どちらかに回すだけ。効果のかかり具合さえ覚えてしまえば、極端に言えば“目をつぶってでも”操作できます。デジタル・アナログ問わず使い勝手はまずそんな感じです。
そうそう、今更ではありますが、外観的なイメージは、よくギタリストが足で踏んでいるヤツです。まあ、イメージも何も“あれこそがコンパクトエフェクター”です。ですから“ギター用エフェクター”と言ってもそう差し支えありません。
実際、楽器屋さんに行ってお買い求めになる際には、音響機材コーナーではなく、ギターコーナーに行かないと置いてありませんのでご注意下さい。まあ、“激安中古”を探すのであれば、そもそも楽器店ではなく、メルカリやネットオークション、古道具屋さんの方が良いかも知れませんがね。
さて、いよいよ実際のエフェクターと“その効果”についてお話していこうと思います。
まず揃えて頂きたいのものの一つがディレイとなります。いわゆる“山びこ効果”を生み出す機材です。例えば「はい!」と入力すれば「はいはいはいはいはいはい・・・」と繰り返してくれるわけです。で、ツマミを回せば「はい・・・はい・・・はい・・・はい・・・」といった様に、繰り返しのタイミングが遅くなったりもします。
筆者所有のデジタルディレイBOSS DD-5(コンパクトエフェクター)。
まあ、メーカー(ないしは機種)の違いによって若干の機能の違いと言うか、付いている機能や付いていない機能があったりもしますので、購入に際してはその辺りもチェックしてみるべきかとは思いますが、上記の様な効果は共通です。いずれにしろ汎用性の高いエフェクターであることは間違いありません。
そして定番エフェクターと言えばやっぱりリバーブでしょうか。これは様々な残響を付けることができる機材です。例えば、“お風呂場で歌う時の感じ”をイメージして頂きたい。あの響き。あれがリバーブ効果です。
別の例で言えば、誰もいない体育館なり教会等(大きな空間)で大きな声を出してみる時と、自宅のトイレ(小さな空間)で大きな声を出してみるのとでは、同じ大きな声を出してみても“響(残響)”が違う訳です。そうした様々なタイプの残響を作り出すことができるのがこのエフェクターです。
演劇的に用いるならば、実際の空間の残響をシミュレートするだけに限りません。例えば、こうした効果をとても深くかければ、広い宇宙空間を漂っている感じが表現できるかも知れません。まあ、この場合、実際に宇宙でそう響くという意味(再現)ではなく、あくまでも“なんとなくそんな感じ“といった程度の乱暴なイメージに過ぎませんが・・・。ただ、そんな”架空の空間の演出“にも使えるよ!といったお話です。
ちょっと真面目な使い方を言えば、奥行き感を出したりする際にも使ったりします。まあ、この辺りは“音響さんの仕事”の範疇だったりもしますが・・・
いずれにしろ、このリバーブも汎用性の高いエフェクターと言えるでしょう。
さて、ここからが飛び道具の紹介となります。
もちろん、あれもこれも紹介できるスペースはありませんし、あったとしても“音”を“言葉”で表現すること自体に限界がありますので、比較的、言葉で伝え易いような効果を持つエフェクターを紹介するといった嫌いがあることをご承知ください。
一番良いのは、実際に楽器屋さんで音を聞かせてもらうことです。まあ、その場合、ギター売り場での視聴になると思いますので、ギターの音で効果を確かめることになると思いますが・・・まあ、最近は通販専門の楽器屋さんのサイトなんかでも動画をアップしたりしておりますので、そうした動画を参考になさっても良いかと思います。ああ、それが一番良いかも!
てな訳で、先ずはフェイザーのご紹介。
筆者所有のフェイザーBOSS PH-2(コンパクトエフェクター)。
これは“シュワ〜”といったような音で“うねる”ような効果が得られます。これもステレオタイプな表現で言えば、ちょっと“宇宙的”ないしは“SF的”な感じかしら?まあ、これを用いれば自然界には無いような“響”になることは確かです。
フェイザーと似て非なるものにフランジャーというものもあります。フィードバックの値を上げれば、やはり金属的な強いうねり効果が得られます。まあ、フェイザーとフランジャーの“うねり”の感じの違いは・・・まあ、実際に聴き比べてみる方が早いと思います。
筆者所有のフランジャーBOSS BF-2(コンパクトエフェクター)。
私個人の中では、音色的な特徴(比較)として、フランジャーは「ディ〜ン」で、フェイザーが「シュワ〜」といった響を持っているという位置付けなのですが、こんなのは「シクシク痛い」とか「ジンジン痛い」とかそういった個人の感覚的な話なのであまり意味はないかなと。まあ、これが“音”を“言葉”で表現する際の限界というヤツです。
他にもフランジャーと同じような仕組みを持つエフェクターにコーラスというものがあります。これはザックリ言えば、1人の声(ないしは演奏)に2人以上の声(演奏)を重ねたような厚みを与えてくれます。使い方や機種にもよりますが、私のイメージ的には、変な音に加工するというよりは、太く良い音にするといった感じでしょうか。ですから、架空の世界までをも演出する“演劇的な飛び道具”といった意味では、フェイザーやフランジャーの方がオススメかなと。
個人的に使用頻度が高いのはディレイ機能の付いたピッチシフターで、ザックリ言えば、入力された音声の音程を変える機能を持つエフェクターです。ハモったりなんかの効果も作れます。
筆者所有のピッチシフターBOSS PS-3(コンパクトエフェクター)。楽劇座のホール公演時には、テルミン(本来、単音しか出ない)にかけてテルミンを和音で演奏?!していた。
で、次にご紹介したいのが、本命中の本命の飛び道具KORGのKAOSSPAD(カオスパッド)です。
筆者所有のKORG KAOSSPAD2。真ん中の四角いタッチパネルを指で触ることで効果のかかり具合をリアルタイムに変化させることができるスグレもの。楽劇座の公演ではこれを2台セット。主に効果音マシンとして使用したが、実は裏の顔?も・・・なんと、この音が舞台監督の役割も担っていたのだ。別の言い方をすれば、私はこのカオスパッドを指揮棒代りに、演奏ブースから演劇を指揮していたという訳である。ちなみに意外と丈夫。3.11東日本大震災の時なんか、部屋の隅から隅まで対角線上に吹っ飛んだ(流石に箱には入っていたが)ものの、今(11年経った2022年現在)のところ特に問題なし。
これは正確にはコンパクトエフェクターではありませんが、多機能な割にコンパクトで直感的な操作性が魅力です。これ一台に様々な機能が詰め込まれています。リバーブ、ディレイはもちろん、ボコーダーやらシンセ音、挙げ句の果てにはドラムのリズムまで。パッドを指で触って音を出したり、エフェクト効果を付けたりするのですが、パッドのどの位置を触るかで効果が変わります。なかなか面白い楽器です。
そう、なんとなく“機材”というより“楽器”と呼びたくなる感じなのです。まあ、これも“感覚的な話”ではありますが・・・ただ、実際のところ“操作”というよりも“演奏する“といった側面が強いように思われますので、そういった意味では”楽器(電子楽器)“と表現した方が良いのかも知れません。
実はこのカオスパッド、20年近く前から愛用しておりまして、2010年の楽劇座第1回公演の際に中古(上演したホール近くの楽器店に並んでいたので、リハーサルの休憩時に購入)でもう1台追加したほど。
その後の楽劇座の公演ではお馴染みの音(主に2種類の音を使用)となりました。この音(“ポンっ”という音)で空間を演出していたと言っても過言ではありません。また、“出”のきっかけの合図であるとか、舞台監督的な役割も担ってくれておりました。もちろん、そうした一連の操作(演奏?)は全て私の担当です。要するに、そうしたことの意味を身をもって知っているからこそ、こうして“リアルタイムな音響生成”によるパフォーマンスに言及しているようなところもあるぐらいです。
さて、このカオスパッドにはフィルター、モジュレーション、ディレイ、リバーブ、SFX、ドラム(リズム)パターン、シンセ音、ボコーダー(入力した音声をロボットボイスにしてくれる)などのモードがダイヤルを回すことで選択できます。それに、サンプリングタイムこそ短い(約6秒)ものの、2種類の音をサンプリングすることも可能ですし、ボタン一つで再生することもできますので、演劇で使用するにはなかなか便利なのではないかと思います。
ちなみに、一般的に音楽的な意味での“サンプリング”とは、まあ、単純に言ってしまえば“音を録音する機能”であり、通常の録音機(MD、テープレコーダー等)との違いは、そうして収録した音に加工などを施してシンセサイザー等の楽器の音と同等に使用できるという点ではないでしょうか。例えば、机を叩いた音をサンプリングし、音程を低めるなどしてバスドラムの音として使用するとか、そういった使い方ができます。
カオスパッドのサンプリング機能に関しては、再生スピードを変化させたり、逆再生などの加工を施すことができますが、電源を落とすとせっかくサンプリングした音が失われてしまいますので、公演の度(上演前)に毎回サンプリングし直さなければならなりません。まあ、その辺りが面倒くさいと言えば面倒くさい。だから誰かの足にでも引っ掛けて電源ケーブルが抜けてしまったなんて日にゃ、せっかく用意した音が跡形もなく消えてしまう。ですから、私自身はそうした使い方(サンプリング)はほとんどしていませんでした。
まあ、学生演劇なら音響ブースにマッキーの太字で「ケーブル抜いたら罰金1万円!」と書いておくとか?まあ、気をつければ良いだけのことではありますが・・・ちなみに「罰金100万円!」はやめておきましょう。“100万円”だと、リアルじゃなくなっちゃうので、却って効果がありません。
そう言えば、かつて1,000万円以上したフェアライトCMIというサンプリングマシンをステージで使用していたミュージシャンのブースには「壊したら弁償」みたいな注意書きがあったような(笑)スタッフは緊張しますね。
まあ、それは兎も角、カオスパッドの場合、停電なんかでもサンプリングした音が消えてしまいますので、その辺りの対処を予め考えておく必要があるのは確かです。
もちろん、サンプリング系の機材に関しては、現在はもっと便利なものが販売されているので、財布に余裕のある方はそうした現行商品から選択すれば良いと思いますが、今回の“お財布に優しい”を考えると、これ(カオスパッド)1台で至れり尽くせりといった感じではないでしょうか?
ちなみに、この記事を書いている2022年10月現在、ヤフオクの中古相場は100円台〜6000円といったところでしょうか。まあ、お手頃ですね。
ですので、中古のカオスパッドに、操作の段取り上、「必要だな」と思えるコンパクトエフェクターを追加すればまあまあ“創造的なこと”ができるのではないでしょうか。
最後にシンセサイザーをエフェクター的に使用するケースにも触れておきたいと思います。
その場合、外部入力を持つシンセサイザーが前提となります。外部から入力された音(例えば声など)をそのシンセサイザーのフィルターセクション等で加工するということになります。スターウォーズのR2D2の声はARP2600というシンセサイザーで作られた音とされますが、おそらく、外部入力から声を入力し、それを加工したものかと思われます。
筆者の所有するセミ・モジュラーシンセサイザーARP2600。スターウォーズの他にも、初期の「機動戦士ガンダム」の効果音にも使われていたそうです。音色の傾向としては、金属的な音を得意とします。写真のフルサイズモデルはもともと生産数が極端に少なく、発売時より入手が困難を極め、現在はすでに販売終了しておりますが、これをサイズダウンした廉価版ARP2600M(ミニサイズモデル/本体のみ)は19万8千円で日本のシンセサイザーメーカーKORGから販売されています。
ARP2600はかなり高額なシンセサイザーですが、外部入力を持つシンセサイザー自体(※“外部入力”と一口に言っても、機種によって様々な仕様があるかと思いますので、ご購入に際してはご自身の使用目的に適ったものかどうか?を“よくお調べの上”お選び下さい)は、KORGのMS20mini等、新品でも4万円台ぐらいから存在すると思いますので、財布に余裕のある時にでも、そうしたものを購入しておくと、かなりいろいろなことができると思います。効果音も自由自在に作れますし、楽音としてメロディ等を弾くこともできます。
筆者の所有するMS20(写真)は、厳密にはフィジカルコントローラーで、音源自体はコンピューター上のソフトを使用するタイプのものです。
要するに、シンセサイザーは、仕込み(スタジオないし自宅での作業)にもライブ(公演)にも使える“万能調味料”です。
鍵盤が付いてるので鍵盤楽器と思われる方が多いかもしれませんが、本質的にはあくまでも“音を合成する機械”であり、鍵盤は音を鳴らすスイッチでしかありません。ですので、弾ける弾けないはあまり関係ありません。
実際、最近流行のモジュラーシンセサイザーは鍵盤を使用しない形で使用している人の方が多いと思われます。まあ、それなりのお値段だったりしますので、今回はあえてご紹介しておりませんが・・・お財布に余裕のある方には是非試して頂きたいところではあります。
まあ、兎にも角にも、自分にとっての“遊び心”を誘発してくれる様な機材を選ぶ(巡り合う)ことが何より大切かと思われます。
いわば、機材と自らの創造性のコラボレーションです!
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(文:関口純 ※文章・写真の無断転載を禁じます)
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