[スタジオ術Ⅲ] 音響装置としての移動スタジオ 〜 スタジオを持って街に出よう! 編 〜 第2回 機材の選定(1) 〜ミキサーについて〜
楽劇座公演で使用していた音響機材(16チャンネルアナログミキサー&各種エフェクター)たち。
第2回 機材の選定(1) 〜ミキサーについて〜
さて、それではどんな機材が必要なのか? ですが・・・
正直なところ、特に決まりはありません。
・・・・・
と言ってしまうと元も子もないので、参考までにベーシックなセッティングを考えてみたいと思います。
先ずはミキサーです。こればかりは外せない。まあ、学生演劇なんかでもお馴染みの音響機材ですね。
MACKIE CR-1604-VLZの操作パネル。とても分かりやすい配置。アナログミキサーの場合、この様に一目見るだけで “何がどうなっているのか?(ツマミの位置等)”が把握できますので、“リアルタイムでの変化“ といった意味(操作)では、アナログミキサーがベストな選択と言えるでしょう。デジタルミキサーの場合、液晶パネルにいちいち機能を呼び出して操作するタイプのものも少なくありませんので、そうしたものに関して言えば、今回ご提案する ”リアルタイムな音響生成(音加工&変化)“ = ”ミキサー&エフェクターを演奏する” といったスタイルには適しません。もちろん、操作パネルがアナログ仕様、内部はデジタル処理といった機種ならば問題ありません。
何をするものかと言えば、要するに“音をまとめる為の機材”です。レコーダー(録音物)等の出力をこのマシンに突っ込んで、フェーダーの上げ下げで音を大きくしたり小さくしたり・・・些か乱暴ではありますが、一言で言えば、音響さんが音量を司るマシンです。とまあ、ここまでは演劇部でもお馴染みの使い方です。
このミキサーなるマシン、実は他にも色々と美味しい?機能が備わっておりまして・・・まあ、厳密に言えば、機材(メーカーや値段etc.)によって機能は異なるのですが・・・基本的な機能はほぼどれも同じと考えて差し支えありませんので、その辺りに関する説明をしてみようと思います。
今回のテーマである“リアルタイムな音響生成(音加工&変化)”を司る為には、正直、ミキサーだけでは役不足です。ただし、このミキサーを経由して“どの音にどの様な効果をどれくらいつけるのか?”を選択することになりますので、ミキサーはいわば司令塔(“作業机”と表現しても良い)の様な存在、ないしは役割と考えて頂いて結構です。※ 私が言うところの “リアルタイムな音響生成” は、そもそも “音加工&変化” を含む概念なのですが、そうした意味合いがより強い文脈では、あえて “リアルタイムな音響生成(音加工&変化)” といった表記を用いることがあります。
先ず、ミキサーにはチャンネル数というものがあります。一般的に、小〜中規模の演劇公演で使われるものだと、小型のモデルで4チャンネル〜16チャンネル。大型のモデルだと24チャンネル〜32チャンネル(まあまあな設置スペースが必要)ぐらいでしょうか。もちろん、もっと大型のものもありますが・・・個人で所有&移動することを考えれば、まあ、こんなものでしょう。
正直、個人(1人)での移動を考えれば16チャンネルぐらいまでかな?と思われます・・・とは言え、頑丈なケース(F R P素材等)に入れて持ち運ぶ場合、それでも“車移動が前提のレベル”の重さだと思います。バックパックにでも入れて気軽に持ち運びたいのであれば、機種にもよりますが4チャンネル〜8チャンネルぐらいが限界ではないでしょうか。
本体下の青い箱が、筆者所有のMACKIE CR-1604-VLZ専用フライトケース(Duplex)。こうしたものは特注が基本となります。値段もこのサイズで4万円ぐらいはしたと思います。ただ、少々値段はお高くても、仕事での移動(スタッフ=他人による)がある場合はこうしたものを用意した方が安心です。
さて、このチャンネル数なのですが、それなりに多ければ多いほど、いろいろな選択肢が生まれます。ですので、多いに越したことはないのですが、まあ、値段と利便性を考えて自分の環境にふさわしいものを選んで頂きたいと思います。
演劇部等の備品として既にあるのであれば、それを使う方向で良いと思います。ですが、今回の提案は“自身のパフォーマンスの道具”としてのミキサーですので、自分が使いやすいものを所有しても良いかと思われます。この辺りはブラスバンド部所有の楽器と個人で所有する楽器のイメージで考えて頂ければよろしいかと思います。
で、肝心の使い方ですが、要するにチャンネルごとに各種の音を入力します。例えば、1〜2チャンネルにレコーダー(パソコン、CD、MDetc.何でも結構ですが、要するに予め録音された音、ないしは音楽を再生する装置)からの音を入力します。現在は大抵ステレオ録音の筈ですので、これだけで右と左で2チャンネル使用(Pan・・・音を左〜中央〜右180度のどの辺から鳴るようにするかを決めるツマミ・・・で左右ちゃんと振ってあげてね)することになります。
機種によっては1本のフェーダーに対して2つの入力(ステレオ入力)が付いているタイプの機種もありますが、とりあえずそうした機能がないもの(全てモノチャンネル)として説明します。すると4チャンネル仕様のミキサーの場合、残り2チャンネルとなり、ここにステレオ出力の楽器(シンセサイザー等)でも入力すればそれで全てのチャンネルが埋まってしまうことになります。そうなるとマイクで拾った台詞や楽器音(鍋などを叩く音も含む)を入力するチャンネルがなくなってしまう。まあ、シンセ等を使わなければ残り2チャンネルにマイクで拾った音をつなげればなんとかなりそうな感じではありますが、それではやれることが制限されてしまうのも確かです。
まあ、裏技としては、演劇部等の備品ミキサーの1〜2チャンネル(ステレオ入力)にレコーダー(音楽等の録音物)をつないで、3〜4チャンネル(ステレオ入力)に個人所有のミキサーからの出力を入れてやれば、個人所有のミキサーが4チャンネルであっても、多少は出来ることが広がりますので、この辺りは環境によるところかと思われます。
とはいえ、あまりタコ足配線の様なことをするのはノイズという観点からもオススメはしません。まあ、録音ならいざ知らず、ライブ(公演)で使用するぐらいならばそれほど問題はないかとも思われますが・・・正直、こればかりは機材のメンテナンス状態等、各種要因が関係しますので、実際にやってみないことにはなんとも言えないところではあります。
で、ミキサーを選ぶ際(チャンネル数以外)にチェックしておきたいのが、AUX(オグジュアリー)の数です。小型タイプのものは少ない(1〜2個程度?)のが通常です。このAUXはいろいろな使い方があるのですが、今回の“リアルタイムでの音素材の変化”という観点からは、エフェクターに音を送って加工する際に役立ちます。
単純に言えば、AUX1にフランジャー、AUX2にピッチシフター、AUX3にディレイ、AUX4にリバーブといった具合に一対一でつなぐことができます。ただし、一般的に4チャンネルミキサーぐらいの規模だと、AUXが2つ付いている程度ではないかと思います。
AUXとエフェクターを一対一でつないだ場合のイメージ図
ちなみに、私がライブで使用しているMACKIE CR-1604-VLZにはAUXが6つ(AUXのツマミ自体は4つですが、3&4をスイッチ一つで5&6に切り替えられる)も付いています。楽劇座の作品では小規模なミュージカル作品も多かったので、そうした際、ボーカル3〜4人分のエフェクト処理にはかなり役立った記憶があります。
もちろん、AUXが1つでも、そこにフランジャー→ピッチシフター→ディレイ→リバーブといった具合にエフェクター同士をつないでいくといった手がない訳でもありませんし、実際、現実的にはそうして使うことになるのかも知れません。
一つのAUXに複数のエフェクターをつないだ場合のイメージ図
ただ、通常業務(通常の音出し等)を行いながら、音素材(マイクで拾った台詞や演奏)をリアルタイムで変化させるべく、直感的かつ瞬間的に操作するという演劇公演での実際を考えれば、いちいち各エフェクターのオン・オフスイッチを押す手間も惜しみたいところではあります。
こうした部分にも音響プラン(機材の選定含む)の設計が必要となります。予算の潤沢なプロ(仕様)よりもアマチュア(ないしは予算に乏しいプロ)仕様の方がある意味シビアな設計が必要となります。
“オン・オフスイッチを押す手間も惜しむ”などと言うと、なんだか“手を抜く“みたいに聞こえるかも知れませんが、決してそういった意味ではありません。操作が増えれば増える分だけ、ちょっとばかり複雑なことがしたくなった時に間違いが起こり易くなるのです。
で、安全を求めるが為に間違いを避けようと思えば思うほど、だんだん単純なことしかしなくなっていくというのが人情というもの。ただ、それでは“リアルタイムに創造性を発揮する”上では本末転倒と言えます。
ですので、機材の選定に際しては、AUXの数一つとっても悩みどころとなるのです。また、エフェクター同士をつないだ場合、どれか一つが壊れでもしたら“音が全く出なくなる”なんてことも無いとは言えません・・・まあ、これに関しては、今回改めて“真ん中に接続されたエフェクターの電源ケーブルを抜く”という検証をしてみた際にも音は出ていたので大丈夫かとは思いますが。
ただ、実際、楽劇座で朗読劇を上演した際、本番直前にエフェクターの一つに電源の接触不良が見つかり、“おかしなこと”になったので慌てて外したことがあります。もしも、そんなことが本番中に起きでもしたら・・・。
まあ、考え出したらキリはありませんが、実際の上演を考えれば、何かあった時に備えて“代替え案”を用意しておく必要があるのは確かです。
とは言え、“ミキサーの電源が落ちる”といった故障でもあった日にゃ、なんの手の打ちようもありませんが・・・と、まあ、そこまで言い出すと“ロウソクを立てて生楽器の生演奏で!”ということになります。いや、待てよ!操作中(ないしは演奏中)に心臓麻痺でも起こしたら?!
さて、どのあたりで手を打つか?実際、こうした線引きはとても難しいのです。最終的には“線を引く人間の性格の問題”といった話になります。楽観的か?悲観的か?
では参考までに、私の場合はどうかと言えば、かなり悲観的な方ではありますが、音楽に関して言えば・・・生ピアノが置いてある場所であれば・・・「電気がなければ弾けば良い!」と、それはまるでマリー・アントワネットさながらの開き直り?が根底にあります。
まあ、“芸は身を助ける“とでも言いましょうか、最終的にはテクノロジーでは無く、身体のテクニックの力を信じているのです。これは役者の能力(演技力)についても同様に考えています。
要するに、テクノロジーは活用するものであり、依存するものであってはいけないという考え方が根底にある訳です。ですので、“リアルタイムな音響生成”などとは言っても、演技であったり楽器演奏であったりの基本的な技術の習得といったものが第一次的で、そうして生み出された“素材”をさらに加工して「次なる(未知の)領域に繰り出そう!」といった第二次的な試みとして、演劇における“リアルタイムの音響生成”といった提案をしている次第であります。そこのところは是非とも押さえておいて頂きたいと思います。
ただし、「それでは“リアルタイムな音響生成“は単なる二次的な”添え物“にすぎないのか?」と言えば、全然そんなことはありません。要するに、それは作業工程としての”一次的“ないしは”二次的“といった話で、どちらが劣っていても”良い作品“を生み出すことは難しいだろうといった意味を含みます。
もし、演技力等の“一次的”技術に難があり、“リアルタイムな音響生成“が素晴らしいものであった場合、そこで発揮される音響の技術は下手な演技を誤魔化すことに寄与するといった、演劇的には消極的な創造性を発揮するにとどまるでしょうし、逆に、演技力が素晴らしいにも関わらず、”リアルタイムな音響生成”が下手をした場合、演劇的には音響と称して“余計なことをした“だけとなります。
要するに、どちらも素晴らしく、初めて“未知の領域に繰り出せる”のであります。
気づけば機材の話から作品創りの話にシフトしておりますが、これこそ“狙い“だったりもするのです。機材の使い方一つにも「何のため?」といった問いが存在するか?否か?それこそ、アーティストとなりうるか?否か?の分かれ目となります。だって、今回の提案の根幹は”創造性“にある訳ですから。でしょ?
“創造的な音響機材の使い方”という観点から言えば、マイクは“より積極的な音創り”の為に用いるのであって、決して声が出ない役者?(そもそも、そんなのを“役者”と呼べるのかどうかにすら疑問の余地がありますが・・・)の声を増幅する為に用いてはならないのです。そうなると、もはや演劇かどうかすら疑わしくなってきますから。
まあ、これも考え方、価値観によるものなので断定的な物言いは避けなければなりませんが、少なくとも私はそう思っています。まあ、実際、マイクを使わなければ舞台に立つことが出来ないようなタレントさんの演劇公演とやらも存在するようですが・・・と、まあ、何気に“昨今の風潮”をディスってます(笑)
これ以上、悪態をつかないうちに次回の予告です・・・次回は楽しい楽しい?エフェクターについてお話したいと思います。この“エフェクター“というヤツが”リアルタイムな音響生成(音加工&変化)“、すなわち”素材=入力した音“に様々な効果を付けてくれる”魔法“の正体となります。
あっ!そうそう、もちろんミキサーの方も、今回お話したAUXと音量調整だけが全てでないのは言うまでもありません。ですが、ここでミキサーの説明だけを延々としていても、演劇公演に“リアルタイムな音響生成”を“取り入れてみる”どころか、いつまで経っても“全体の雰囲気を把握する”ことすら出来ませんので、とりあえず話を先に進めたいと思います。
と言うか、“ミキサーの機能”についての話は「また折を見て話題にしていけたらなあ」ぐらいの感じです。だって、一般的なミキサーの機能について書かれた解説本の類(“ネット上での解説”も含む)はそれこそ山のようにあるでしょうから・・・“ミキサーの機能”についてより詳しく知りたい方はそちらをご覧ください。
そもそも、このコラム<スタジオ術>の目的は“機材の使い方”ではなく、あくまでも私自身の創造哲学(ないしは経験)に根ざした“創造の提案“であります。
それでは次回、お楽しみに!
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(文:関口純 ※文章・写真の無断転載を禁じます)
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