2022.11.9  16

[スタジオ術Ⅲ] 音響装置としての移動スタジオ 〜 スタジオを持って街に出よう! 編 〜 第一回 音響パフォーマンスのススメ! 〜超・アナログ思考のリアルタイムな音響生成について〜



楽劇座公演で使用していた音響機材(16チャンネルアナログミキサー&各種エフェクター)たち。
楽劇座公演で使用していた音響機材(16チャンネルアナログミキサー&各種エフェクター)たち。
 

第一回 音響パフォーマンスのススメ!
〜超・アナログ思考のリアルタイムな音響生成について〜

 
今回は“音響”を“演奏”として解釈してみようというお話です。

演劇の音響さん(ないしは“効果さん”)といえば、「この台詞のタイミングでM.1をかける」であるとか「この台詞の手前で雷の効果音を入れる」といった様な、いわばレコーダー(パソコン含む)のスタート(再生)&ストップ(停止)を操作する人といった感が否めない。もう少し丁寧に定義するならば、あらかじめ用意された素材(音楽、ないしは効果音)を決められたタイミング(願わくば絶妙なタイミングで!)で“再生&停止する”のが仕事といったところだろうか?

ここに“リアルタイム”というファクターを追加して、リアルタイムでパフォーマンスに参加してみよう!というのが今回の提案。

より具体的には、音素材のリアルタイムな変化を音響操作(=パフォーマンス)に追加する訳である。

 
ちなみに、最近はコンピューターを使ったリアルタイムな音響生成のプログラムなんてものもありますが、あえてここでは、30〜40年ぐらい前の“前衛音楽のやり方”に近い形で提案してみたいと思います。

これは、“なるべくお金をかけない”という意図もありますが、それ以上に、リアルタイムな音響操作に自身の耳と手を用いた一期一会の瞬間の創造性、ないしはライブ感を音響操作に取り入れる方法を提案したいという考えによるものです。

正直、こうした提案は一般的な音響さん(効果さん)の領域を超えています。むしろ、音楽家に近い。さらに言えば、音楽家の中でもDJに近い考え方かも知れません。いわゆる音楽DJと違う点は、音楽の場合、基本、ノンストップで音を鳴らします(つないで行く)が、演劇の場合は、音楽DJのそれに比べて無音状態が長く、そうした無音と音出しのタイミングでリズム(ないしはグルーブ)を生み出すとでもいったところでしょうか。いわば演劇DJです!

こうした考え方は、これから音響さん(効果さん)を志す方はもとより、小劇場、学生演劇などの“新たな地平を切り開く”といった意味で大いに役立つ考え方なのではないかと思われます。

もちろん、先人に敬意を持つことを忘れてはいけません。という訳で、こうした一連の提案は、音響さん(効果さん)の既存の仕事(テクニック)を否定するものではありません。むしろ、マイクのセッティング等に関しては大いに吸収すべきものがあると思われます。

 
さて、とりあえず、音素材に関してはザックリ2つに分けて考えてみるとしましょう。1つは、予め用意しておいた素材。これは旧来と同様、スタジオなり自宅なりで予め用意しておく“音楽や効果音”。そして、もう1つはリアルタイムに発生する台詞や演奏等

ここで、特に説明が必要となるのは1.“リアルタイムで発生する台詞や演奏”が何を意味するのか?と、2.その取り扱いであろう。

“リアルタイムで発生する台詞”とは、そのままの意味で、舞台上(ないしは舞台裏)で役者が喋る台詞である。それ自体(音質や響き)をリアルタイムで変化、コントロールしてみようという話である。“演奏”も同様。ただし、演奏とは言っても、ギターであるとかピアノであるとか、いわゆる“楽器”の演奏とは限らない。極端な話、”鍋の中にビー玉を入れて転がす音”でも良いし、“割り箸を折る音”や“爪で何かを引っ掻く音”でも良いのだ。

要するに、メディア(現在はほぼパソコンを経由したデジタルデータが主流と思われますが、アナログ録音のテープ等も含む)に予め記録された音、すなわち、過去に固定された音だけでなく、今現在、本番中に生成される音をも操作の対象にしてしまおうというお話。
 
 

台詞の音響素材化

 
特定の台詞の語尾にディレイ(山びこ効果)をかける等の処理は現在でも音響さんの範疇かも知れませんが、もっと積極的に台詞を音響素材として考えてみようという提案です。ただ、これには演出家の考える世界観との親和性や、こうしたやり方への演出家の理解が必要なのは言うまでもありません。

一部の前衛的な人を除けば、プロ・アマチュア問わず “演劇の人” というのは意外に保守的な傾向をお持ちな方が多いような気がします。まあ、これは私の実感として”そう感じる”というだけの話ではありますが、実際、そう外れてはいないような気がします。”当たらずといえども遠からず”といったところでしょうか。

まあ、そうした“こんな感じ”といった稽古場の空気もありますでしょうから、“新しい試み=今までとは勝手の異なる試み”には現場での揉め事を誘発するような危険性がない訳でもありませんので、くれぐれも慎重にことを進めて頂きたい(笑)

あと一つ、些か老婆心ながら付け加えさせて頂くとすれば、“積極的に台詞を音響素材として考える”とは言っても、「全ての台詞になんらかのエフェクターをかけてしまえ!」といったような単純かつ乱暴な話ではありません。そんな感じでは演劇のライブ性と言うか、いわゆる”生“の意味が損なわれかねないかも?と危惧すら感じたりしてしまいます。要するに、そうした生音と加工音のバランスや処理の仕方に創造性が宿り、センスが問われるところかと思われます。

 

音響素材としての楽器音等

 
楽器に関しては、自分で演奏できるものがあれば“それも音響素材(資源)”なので、適材適所で取り入れてみるのは言うまでもありません・・・ちなみに、これは一般的に言えば音響さん(効果さん)の領域ではなく、音楽家の領域ですが、創造性を拡張するためにもあえて提案してみたいと思った次第であります!

録音物の再生よりも、役者の呼吸を感じ、考慮しながら演奏する方が“演劇空間の構築”という観点から見れば寄与するところが大きいのは確かです。

これは私自身の経験からも言えることで、私自身は楽劇座のほぼ全公演でシンセサイザーの生演奏をしてきました。“生演奏”とは言っても、いわゆるドレミを弾いていただけではなく、楽音以外のものも鳴らしていました。

そして、会場の空気や役者の空気(出来?)によって毎回ちょっとずつ内容を変えていました。要するに、即興的な要素が強かったように思います。ただ、これは私自身が演出(楽劇座に関しては)も手掛けていたということもあり、いちいち誰か(他の演出家)のお伺いを立てなくても良かったという面も大きかったように思います。ですので、この辺りは演出家との信頼関係になってくるのかとは思いますが・・・

それは兎も角、シンセサイザーなどのライン接続(ザックリ言えば、コードを繋げれば音が鳴る)の音素材ならば話は単純ですが、生楽器(生活用品を叩く等も含む)や声の場合、その音をマイクで拾う必要があります。もちろん、台詞の場合も同様です。

まあ、実際のところ、それほど難しい話ではありません(あくまでも“仕組み的には”の話ですが)。今までも使ってきたであろうミキサーを軸に、マイク数本とコンパクトエフェクターでもあればとりあえず始められる試みなのです。もちろん、マイクやエフェクターは安いもので結構。中古なら、子供のお小遣い程度で購入できるものが山の様にあります。

 
いずれにしろ、こんな一手間で、音響を担当する上での気持ちが違ってくると言うか・・・“やりがい”が生まれると言うか、正直、今まで以上に面白くなると思います。

では、その“気持ちが違ってくる”であるとか“やりがい”といったものが何処にあるのか?と言えば、それは自らがアーティストとして作品に参加するという点にあるのではないでしょうか? 旧来、創造性という意味では、どうしても役者や演出家のアーティスト性に目が行きがちで・・・まあ、パフォーマーとしてそこに同列で並んでしまおうという訳ですから・・・ねえ?

 
次回からは、機材の使い方やその選定(購入含む)にあたってのチェックポイントなどをお話したいと思います。

初心者向けにお話しさせて頂くつもりですので、「面白いことを取り入れてはみたいけど、演劇以外はよく分からん!」という方もご安心下さい!

 

 


 
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(文:関口純 ※文章・写真の無断転載を禁じます)

この記事を書いたのは

関口純
劇作・演出・作曲家。楽劇座芸術監督として7年間で100作品以上の演出を担当する。曽祖父は新劇の演出家、祖母はギタリスト、父は新劇プロデューサー、母は女優という芸術一家に生まれる。幼少期よりピアノ、十代の頃より音大教授に作曲を師事。その後、クラシックからポップス、劇音楽に至るまで幅広い分野でミュージシャンとして活動する傍ら、劇作・演出家の津上忠氏のもとで演出の研鑽を積む。日本テレビ音楽(株)顧問(サウンドプロデューサー)等を経て、現職。

 

 

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