世田谷パブリックシアター『お勢、断行』倉科カナ・江口のりこ・倉持裕インタビュー
写真左から江口のりこ、倉科カナ、倉持裕(作・演出)
江戸川乱歩の小説を原案として、倉持裕が新たに創作する舞台『お勢、断行』。本作に出演する倉科カナ、江口のりこ、そして倉持裕の3人にインタビュー取材した。
2017年に上演された『お勢登場』以来3年ぶり・4度目となる”世田谷パブリックシアター×演出家・倉持裕”のタッグによる舞台『お勢、断行』が、2020年2月~3月に上演される。
江戸川乱歩の小説をそのまま舞台化するのではなく、乱歩的美意識やユーモラスでミステリアスな登場人物たちをモチーフに、倉持裕 独自の感性で新たな新作現代演劇を作り上げる。
音楽を手掛けるのは斎藤ネコ。出演者には倉科カナ、上白石萌歌、江口のりこ、柳下大、池谷のぶえ、粕谷吉洋、千葉雅子、大空ゆうひ、正名僕蔵、梶原善。個性豊かな俳優陣にも注目が集まっている。
2019年9月に都内スタジオで行われたビジュアル撮影後、演出家・倉持裕さん、お勢役・倉科カナさん、女中役・江口のりこさんの対談が実現。
お互いの印象や今作の見どころ、演劇に対する思いなどをたっぷりと語ってくれた。(以下3名とも名字で表記、敬称略)
写真左から江口のりこ、倉持裕(作・演出)、倉科カナ
――まずは、お互いの印象を教えてください。
江口「倉持さんは、以前の作品の稽古での印象では、簡単に笑わない人だなぁと思いました。倉科さんは今日はじめてお会いしたんですが、明るい方だなと。」
倉科「倉持さんは、前にご一緒した時に感情が表面に表れないので、最初は嫌われてるのかも・・・と心配したんですが、心はすごく情熱的で男気のある方だなという印象です。江口さんも、倉持さんと少し似ているかんじ。飄々としていて正直な方というイメージです。」
倉科カナ
倉持「江口さんと初めてご一緒したのは10年以上前。クールな印象でした。(自分も)人のこと言えないけど、あんまり表情のない人だなぁと。いじわるなとこがあるのかなと思ったりもしたけど(笑)そういうところが役者としてすごく好きです。倉科さんはもう、可愛い人。きれいだなあと思います。いつもニヤニヤしてる印象があって、それがいいなと思います。」
倉科「あはは(笑)」
倉持「今回のキャスティングの理由のひとつでもあるんですけど、ニヤニヤしてるのが似合うな、とか、そういう人が悪い人をやったら怖いなぁと思って。」
倉科カナ
――ご本人の日常的な印象も役に影響してくるということでしょうか?
倉持「そうですね。江口さんも、今回の『お勢、断行』は、悪い人がたくさん出て来る話だから、そこに江口さんみたいな人がいてほしいと思って声をかけました。本当は色々思ってるくせに黙ってるような役が何人か欲しくて、そのうちのひとり。正直に本心を言う人間がいる中で、それを言わない人間がその周りにいた方がいいから。」
倉科「なるほど。確かに私、ずっとニヤニヤしてるんです。悲しい時も笑っちゃうタイプなんですよ。そういうところは悪い面でもあるかもしれないけど、作品に活かせるのであればおもしろいですよね。」
江口「まだわからない部分も多いけれど、お話を聞いていて、あ、そうか、わたしそういう役なんだなと思いました。」
江口のりこ
――お三方はそれぞれ、テレビ、映画、舞台等、さまざまなジャンルでご活躍されていますが、その中でも演劇の魅力って何だと思いますか?
江口「そのときしかできないこと、っていうところですかね。観る人はその時のものしか観られないし。それってものすごく特別なことだと思います。」
江口のりこ
倉科「私もそう思います。生のフルーツジュースみたいな。フルーツジュースって、同じ味を再現しようとしても2度と作れないんですって。」
江口「同じフルーツでも?」
倉科「そう、同じフルーツでもだめ。舞台はいろんなことが変わっていく”生感”が独特で、観ていても演じていても、その空気が振動していくのを肌で感じられるところが好きです。毎回新しい気持ちでチャレンジできるのも舞台ならではですね。」
倉持裕(作・演出)
倉持「長い時間やれるのもいいよね。舞台なら例えば30分とか1時間のシーンっていうのが成り立つじゃないですか。映像の脚本を書いていると、1ページにどれだけ情報を詰め込んで、状況を分からせるか、という作業が必要なんだけど、舞台ではどこかだらだら書けるというか(笑)そういう時間を成立させることができる。黙っている時間とか。」
倉科「黙ってるだけって、映像だとだめですもんね。どんどん説明台詞入れたり。」
倉持「そう。本当はできると思うんだけどね・・・そういう、黙ってるとかも。あとは、観客の立場からすると、いろんなところを好き勝手に観られるのも舞台のいいところだと思います。喋ってる人じゃなくて、じっと座ってる人の方を見てもいいわけだし。」
倉科「映画とかドラマって最近規制がかかり始めていて、色々狭くなってきてるけど、舞台だともうちょっとメッセージ性の強いことでも発信できたりもしますよね。」
倉持「ほうほう。コンプライアンスみたいな?」
倉科「そうそう。だからすごくやりがいを感じます。」
倉科カナ
それぞれに聞いてみたいことはありますか?と質問すると「おいくつになりました?」と和やかな会話が始まったりと、3人の作る雰囲気は終始ほのぼの。
今作『お勢、断行』では、登場人物のほとんどが悪人と聞いていたので、このギャップに少し驚いた。
現在公表されているあらすじには、
大正末期、資産家の松成千代吉の屋敷に身を寄せた女流作家、お勢(倉科)がいる。
その屋敷には、千代吉の娘(上白石)と住み込みの女中(江口)、そして千代吉と小姑(池谷)からの圧力に苦しむ後妻(大空)がいた。
ある日、千代吉に屈辱を受けた代議士(梶原)は、後妻と結託し、松成家の財産をすべて奪い去ろうと、千代吉を狂人に仕立て上げる計画を練る。女中、精神病院の医院長(正名)、貧しい電灯工事夫(柳下)らを巻き込み、首尾よく進むかに見えたが、第一の殺人がおき、計画は思わぬ惨劇へと突き進む――。
とある。
この物語の中心となる、倉科さん演じるお勢がどのような人物として描かれているのか、倉持さんが答えてくれた。
倉持「お勢はある種、純粋なんじゃないかな。自分は悪人だけど、その悪は許さない。というような、悪人なりの倫理観みたいなものを持っていて、この倫理観を持っているのは登場人物の中で唯一お勢だけ。他の人は単純に悪事を働いているだけ。ただ、それは彼女だけの理屈で他の人には理解できないことなのかもしれない。そんなお勢の倫理観が、他人の行動を変えていってしまう。だけどお勢自身は変わらない。その辺が恐ろしいところなんです。」
倉科カナ
――2017年に上演された『お勢登場』から、今回『お勢、断行』とタイトルが変わりましたが、この意味とは?
倉持「今作は、『お勢登場』の続編ではなく、別の物語。断行というタイトルはストーリーからきています。物語が進んでいくにつれて、目的は達成されていくように見えるけれど、お勢にとっては「でも、決めたことはやってないじゃない。」という思いがある。じゃあそれをやりましょう、という意味の『断行』ですね。」
倉持裕(作・演出)
――最後に、今作をどのような方に観てもらいたいですか?
江口「どのような方、っていうのはないですね。子供も、おじいちゃんもおばあちゃんも、誰にでも観て欲しいなって思いますし、誰が観てもおもしろいって思ってもらえるんじゃないかな。」
倉科「うん、本当に!誰が観ても、楽しんでいただける作品になると思いますのでたくさんの方に来ていただきたいです。」
倉持「今まで明るい演劇とか、健康的な演劇だけしか観てきませんでした、っていう方にぜひ観て欲しいかな。みんな悪いことばっかりしてて結構殺されちゃったりするので。倉持の作品ではコメディしか観てないって方にはぜひ。」
江口「え、これコメディじゃないんですか?」
倉持「コメディなとこもあるかもしれないけど(笑)どコメディではないじゃない。」
江口「そっか(笑)」
倉持「笑いはあるんだろうけど、ゲラゲラ笑えるってことじゃなくて、どこかおかしみがある、って感じですね。だから、コメディが好きな人にはこういうのもありますよって言えたらいいなぁと思います。」
世田谷パブリックシアター『お勢、断行』フライヤー
取材当時、倉持さんの頭の中にあった物語は、どのように昇華されていくのだろうか。
本作の上演は来年2月28日から、世田谷パブリックシアターにて上演。さらに、愛知、島根、兵庫、香川、長野で上演される。
詳細は公式サイトで。
(撮影・文:志田彩香)
世田谷パブリックシアター 『お勢、断行』
【原案】江戸川乱歩
【作・演出】倉持裕
【音楽】斎藤ネコ
【出演】倉科カナ、上白石萌歌、江口のりこ、柳下大、池谷のぶえ、粕谷吉洋、千葉雅子、大空ゆうひ、正名僕蔵、梶原善
2020年2月28日(金)~3月11日(水)/東京・世田谷パブリックシアター
公式サイト
世田谷パブリックシアター 『お勢、断行』
チケット
世田谷パブリックシアターオンラインチケット ぴあ ローチケ
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