少年王者舘が追い求める「根源的な郷愁」とは!? 天野天街にインタビュー/「街ノ麦」7月5日から上野ストアハウスで上演
少年王者舘「街ノ麦」天野天街
舞台「街ノ麦」の演出を手掛ける少年王者舘の天野天街にインタビューした。
少年王者舘は1982年に天野天街らによって旗揚げ。名古屋にある七ツ寺共同スタジオを拠点に活動を始めた。1987年七ツ寺の15周年記念企画で、大阪の松本雄吉率いる維新派と合同で野外ジャングルジム劇場公演「少年ノ玉」を上演。このとき初めてバンドたまと共演を果たした。
また、1992年の七ツ寺20周年記念企画「高丘親王航海記」(原作、故・澁澤龍彦 脚色・演出、天野天街)では、少年王者舘、維新派、てんぷくプロなどの合同で大規模な野外公演を成功させた。
少年王者舘「ライトフレア」撮影:羽鳥直志
最近では静岡で行われた野外フェス・ストレンジシードに参加。静岡の市街地で「アサガオデン~カタンコトン~vol.2」を上演。多くの観客を魅了して好評を博した。
ストレンジシード2018 少年王者舘(撮影:山口真由子)
名古屋を拠点にしながらも神出鬼没に全国で公演を展開している少年王者舘だが、7月に「街ノ麦」という作品を引っ提げて東京・上野ストアハウスで公演を行うことが決まっている。
少年王者舘とはどんな劇団なのか? 「街ノ麦」とはどんな作品になるのだろうか?
エントレでは、主宰の天野天街にインタビュー取材して、じっくりと話を聞いた。
少年王者舘「街ノ麦」天野天街
Q.少年王者舘の発足の経緯を教えてください。
天野「1982年に旗揚げたので、もう36年ですね。基本的には発足から今に至るまで、根本的な考え方ややりたい事は何も変わっていないですね。」
Q.やりたい事というのは?
天野「演劇においての自覚的なことですね。演劇というのはひとつの時間の枠の中で、光と音と、いわゆる映像も含めて、五感全てに訴えかけるものですが、道具を使って何事かを具現させるということですね。
一言でいうと、『根源的な郷愁』と言うか。なぜ私たちは、なぜこの世界はここにあるのか?というような感覚ですね。
言葉で言ってしまうと、それに尽きてしまうんですが、『そういうことを言葉で言わなくてもいいように、何かを表現したい』ということですね。」
少年王者舘「イキル」撮影:羽鳥直志
Q.根源的な郷愁ですか・・・。
天野「なんだか偉そうだけど。ただの懐かしさではなくて、ベクトルが時間軸として過去にも未来にも向いていない、ある何か、ですよね。私の存在はなぜあるのか?ないのか? そういうことを考えたいということですね。」
Q.今回上演される「街ノ麦」は1993年に初演されたものだそうですね。
天野「その頃劇団にいた加藤千晶が、就職していなくなる前に一本やりたいということで彼女が小説を書いて、僕に演出してくれと言われて作った作品でした。
少年王者舘の本公演ではなくて、カトチの会という名義で公演しました。」
街ノ麦初演(記録映像より)
Q.20年以上経って再演に至った経緯というのは?
天野「劇団員の「る」がやりたいと言ったからなんです。たぶん小説を入手して読んで、昔のビデオとかも観たらしくて、自分たちの可能性を刺激する何かを感じたんでしょうか、やりたいと言い出したという流れでしたね。」
Q.今回はどんな作品になりそうでしょうか?
天野「原作者の加藤千晶が歌手として活動していて、バンド的なシステムを持ってできる状態にあるので、今回はダンスと生演奏の音楽で構成しようと思っています。元々、少年王者舘はダンス公演というのもやっていたので、原作の小説の根底的に流れる何か・エキスというかエレメントは保持しながら、いわゆる会話劇に変換するのではなく、そっちの方に力点をおいてやってみようと思っています。」
Q.どんなお話でしょうか?
天野「原作の小説にも明確なストーリーはなくて、いわゆる詩的言語の積み上げで、ひとつのイメージを表しているものなんです。一言で言うと、『ただ、駅ビルが無くなる』という、それだけの事なんです。
あるもの、そして無いもの、これから無くなるもの。ある、ない。・・・これ文字で起こしてもなんだかわからないですよね。」
Q.・・・。駅ビルがあった時のことを懐かしむ・・・、という感じなんでしょうか?
天野「そういう事ではないですね。自分の記憶ではなくて、例えば駅ビルという物質の持つ記憶とかね。それが、どのようにこの空間に反射しているか、ということですね。」
Q.・・・。
天野「ごめんなさいね、言葉では言いにくい感覚なんですよね。」
Q.人間側ではなく、物質側に寄るということですか?
天野「寄るというよりも、魂レベルでは確定することができないので、つまり、どちらにも寄らないということですね。まあ、どっちかに寄るということを出来るだけ回避するというやり方は取ってますね。
何かに傾いてしまっていることに興味が持てないというか、全然驚けないというかね。もう一つの要素として観客を驚かしたいということはあるので。」
Q.お芝居を観れば、僕にもわかるでしょうか?
天野「『天野天街は、わかりやすいことをしたくないのだ』と誤解されることが多いんですが、本当は『もっともわかりやすいことがしたい』んだと思います。分かっていることをやっても面白くないというだけでね。解釈が多義性に向かう方が良しとするということなんです。」
Q.楽しみ方は人それぞれでいいという事ですね。
天野「そうですね。感覚で受け取ってもらうものでしょうからね。いわゆる予定調和というものがあるとしたら、それを微妙に全部ずらしていくような状態にはなると思いますね。生演奏のライブとダンスと演劇があるんだけど、どっちでもいいやってなるのかもしれない。
ただ、面白さは自分なりにおいてあって、絶対つまんないことはしたくないと思っていますね。」
本作は7月5日(木)から上野ストアハウスで上演される。
この機会に少年王者舘を体験しにいってみよう!
(撮影・文:森脇孝/エントレ)
この記事を書いたのは

少年王者舘「街の麦」
構成・演出:天野天街 脚本:虎馬鯨 原作:加藤千晶
音楽:加藤千晶 珠水 原マスミ 構成・振付:夕沈
出演:珠水 夕沈 虎馬鯨 中村榮美子 山本亜手子 雪港 小林夢二 岩本苑子 近藤樺楊
月宵水
<生演奏>
街々ソックス・・・
加藤千晶 鳥羽修 熊坂るつこ 高宮博史 橋本剛秀(7/5,6,7) 松井亜由美(7/8,9) 原マスミ
2018年7月5日(木)~9日(月)/東京・上野ストアハウス
公式サイト
少年王者舘「街の麦」
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